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『未来と現代の人類のために』が老舗オンライン雑誌に掲載されました [受賞報告・自作掲載]

『未来と現代の人類のために』が海外の老舗オンライン雑誌に掲載されました。


【雑誌HP:Aphelion-webzine】
http://www.aphelion-webzine.com/

【作品:『For Humanity Today and Tomorrow』】
http://www.aphelion-webzine.com/flash/2019/02/ForHumanity.html


翻訳者は今回もToshiya Kamei (@kameitoshiya )さんです。
本当にお世話になっています。

Aphelion-webzineは老舗オンラインマガジンで、創刊22年にもなります。
評価も高く、フィクションマガジンで5位、P-zineで2位、E-zine Editorで2位と評価も高く、また250人もの新人作家を生み出してきた登竜門的な雑誌ともなっています。
こうした由緒ある雑誌に掲載されて、光栄に思います。
Aphelion-webzine編集部とKameiさんに感謝です。

本作ですが、SFマガジン・リーダーズストーリーに応募し、掲載には至らなかったものの選評に取り上げられました。
選者から「長編で読みたいアイデア」とのコメントをいただきました。
いまだに掌編のままで申し訳なく思っているのですが、発想が評価されたのかな、と思います。

今後も掲載されるように努力したいです。


以下、日本語版


『未来と現代の人類のために』
齊藤 想

 バケツほどもある密閉式の試験管の底で、人類の祖先であるホモ・ローデシエンシスの胎児が眼を覚ました。彼女は小さな指をくわえ、物欲しそうに唇を開閉させたが、眠気に負けたのか再び目を閉じた。
 人類の妊娠期間は、原人のころからそれほど変わらない。いま試験管の中で眠っている彼女は細胞分裂を始めてから八ヶ月を迎え、すでに人間らしい体つきになっていた。教授は愛おしそうに試験管の表面を撫でた。太古の人類の体温が、ガラスを通じて教授の手のひらに伝わってくる。
「順調だな。君らチームの苦労の成果が、この試験管の中で結実しているわけだ」
「血圧、脈拍ともに異常はありません。最近は手足の動きも活発となりました」
 教授は試験管から両手を離し白衣の中にしまうと、感慨深そうに小さな命を育て続けている機器を見回した。
「それにしても、ここまで育てる苦労は並大抵のものではなかったな。保存状態が劣悪な化石からDNAの断片を抽出し、それらをつなぎ合わせ、欠落した箇所については近隣の種……われわれも含むが……で補うことで新たなる命を生み出した。ここまで成長したのも、君の技術と不断なる努力のおかげだよ」
「しかし、個体を発生させるだけでは成功とは呼べません。成長した彼女が次世代を残す能力を有してこそ始めて喜べるのですが、実は、今回のホモ・ローデシエンシスについては遺伝子のつぎはぎが著しいので、彼女が子供を産めるという自信が持てないのです」
「それは取り越し苦労というものだよ」
 助手の心配を打ち消すように、教授は助手の肩を叩いた。
「君はあの難解極まりないホモ・アウストラロピテクスを完成させたチームの一員ではないか。窓の向こう側にいる彼らは繁殖にも成功し、いまや群れを形成するまでになっている。何を心配することがあるのかね」
 教授は広葉樹が茂っている猿山に目を向けた。彼らは僅かな平地に身を寄せ合い、樹木の隙間から研究者たちを外敵のように厳しい目で睨みつけている。赤ん坊が母親の乳から口を離し、隠れるように背中側に回り込んだ。
「彼らについては、後は自然界に解き放つタイミングを見定めるだけだな。では、研究途中であるジャワ原人やホモ・フローレシエンシスの状況はどうかね」
「両方とも順調にその数を増やしております。そう遠くない時期に、屋外実験場に移せるものと確信しております」
 モニターにはジャワ原人の様子が映った。性別に管理されたケースのなかで、ジャワ原人が吠えていた。隣のモニターに映し出されたホモ・フローレシンエスは、未発達の言語のようなもので、仲間とコミュニケーションを取っていた。順調そうな様子に教授は大きく首を縦に振った。
「君たちの技術力は世界で一番だ。そのことは、君たちがアピールしなくとも、今までの成果が物語っている。これからもこの調子で頼むぞ」
 教授はチームを鼓舞すると、満足そうな顔をして、研究室から出て行った。

 帰宅時間になった。助手は、家族の顔を思い浮かべながら電気自動車に乗り込んだ。古ぼけたバッテリーに暖房を供給する余力はない。ヘラを使って凍りついたフロントガラスから視界を確保するために最低限の霜を剥がすと、前方に注意しながらアクセルと踏み込んだ。道路は一面の銀世界だ。タイヤは粉雪を舞い上げ続ける。
 研究室のテレビで見たのだが、今年で地球が氷河期に突入してから百年になるという。地球の歴史を振り返れば、人類が電気を手に入れた時代にはすでに前回の氷河期が終了してから一万年近く経過していた。2000年前後の人類であれば、周期的に氷河期が近いと予想できたはずだ。そのことに、当時の人間はだれも目を向けなかった。
 助手が育てた人類の祖先たちは、前回の氷河期を乗り越えて現代まで命を繋いできた。きっと、今回の氷河期も耐え抜くに違いない。氷河期が終了するのは九万年後と予想されている。その頃には彼らも現在の人類のような進化を遂げ、再び他の野生生物を圧倒し、新たなる文明を築き上げるはずだ。
 もはや、現代の人類に残された時間は長くは無い。欠乏する化石燃料。遅々として進まない代替エネルギー開発。減産を続ける食料。狭まる一方の居住可能面積。さらには限られた地下資源の奪い合い。
 この施設もエネルギー不足から遠くない時期に閉鎖されることが決まっている。私の最後の仕事が現在の人類を救うことではなく、未来の人類を作ることになるとは思いもしなかった。それでも、私には現在に生きる人類に対しても責任があるはずだ。
 助手は凍えた体を丸めながら、自宅の扉を開けた。娘が父の帰りを待ちわびていた。「パパおかえり」という元気な声とともに、小さな温もりが助手の胸に飛び込んできた。
 助手は、じっくりと、小さな命を抱きしめた。
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