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【SS】齊藤想『最終切符』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房(第32回)に応募した作品です。
テーマは「切符」でした。

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『最終切符』 齊藤想

 近郊都市行きの最終電車。アルバムに挟まれた古ぼけた切符。インクはかすれ、地紋も淡くなり消滅しかかっている。
 それでも、未緒はこの切符を捨てることができなかった。
 地元の高校を卒業した翌日のことだ。当時交際していた康成は、未緒にこの切符を渡しながら、こう宣言した。
「東京で一旗揚げることに決めた」
 次の言葉は分かり切っている。画家になるというのだ。同級生が数人しかいないような学校の写生大会で金賞を取り、東京から赴任してきた先生に褒められた。それだけのことなのに、康成は自分には才能があると勘違いしている。
 ただ、未緒は彼氏のことを責めるつもりはなかった。過疎化に悩み、夢も希望もないこの村では、儚い空想にすがって生きるしかない。未緒と康成の違いは、空想を空想だと認識しているか否かにすぎない。
「三年間通い続けた電車も、明日が最後だな」
 地方路線は次々と廃線の憂き目にあっている。赤と青のツートンカラーの車体も、週明けには永遠の眠りにつく。またひとつ、村の希望が削られる。
「だから、この日に旅立つことに決めた。この電車とともに村を捨てる。そのときには、未緒もついてきてほしい」
 康成は高校生なりに真剣だった。大人のつもりだった。背伸びをしていた。ただ、未緒は彼氏と比べると少しだけ現実的だった。空想を未来だと思い込むことはできなかった。康成に画家としての才能が不足していることも理解していた。
 返事を躊躇する未緒の姿を見て、康成も悟ったようだ。その場を取り繕うように、未緒に切符をカバンにしまうように促した。
「もちろん無理には言わない。おれだって、向こうで芽が出るかどうかわからない。それに、まだ住まいもアルバイト先も見つかっていないしな」
 彼は乾いた笑い声を立てた。三月下旬を迎えようとしているのに、春の訪れが遅い東北の山村らしく、彼が言葉を吐くごとに白い花が咲く。
「画家として成功したら、未緒のことを迎えにいく。そのころには、おれは大豪邸の主だ。それまで切符は大切に持っていてくれ」
 空虚な言葉とともに、夜は深みを増していった。

 康成はひとりで旅立った。彼氏には悪いと思っても、失敗するとわかっているチャレンジに人生を掛ける気持ちにはなれなかった。
 その後、康成の消息は途絶えた。未緒が危惧していたように、康成は画家としては生活することができず、いつしか画商の見習いから古物商になったという。
 康成はあれだけ胸を張って故郷を出たのに、あっさりと夢が破れたことが恥ずかしく思ったようで、古物商の資格を取り、起業したときも地元には何も言わなかった。
 その康成から、五年ぶりに手紙が届いたのだ。
「いまから迎えに行く。約束の切符をもって、あの廃駅まで来てほしい」
 未緒は康成が自分のことを覚えていたことに驚いた。画家ではなく、古物商として成功したのかもしれない。別の意味で、康成は夢を叶えたのだ。
 廃線となった駅は修繕されることなく雨曝しになっていた。
 高校卒業から未緒は何もすることがなく、腐るほど余っている土地で農業のまねごとをしながら、ジャガイモを農協に出荷していた。春作が終われば秋作が始まる。代り映えのしない地元の祭りに、懇親会だかなんだかわからない不思議な集まり。
 そうした若者とは思えない日々を過ごす中で、未緒にとって康成は希望の光だった。その康成が、村に帰ってくる。
 あの駅で、あの切符をもってなんて、康成は都会でもまれてしゃれっ気が出たのかもしれない。未緒の胸はときめいた。
 約束の日。康成は国産の中古車を運転してやってきた。整備不良なのか排気ガスに黒煙が多い。服装もラフなシャツにジーンズだ。
 イメージと違う。未緒は落胆したが、これが康成のスタイルなのかもしれないと気持ちを立て直した。康成は急いであの時の切符を見せてくれといった。未緒は素直に渡す。
「これだよこれ。保存状態も完璧だ」
「この切符がどうかしたの」康成の興奮っぷりに、疑念を持った未緒が尋ねた。
「千間山号の最終列車の未使用切符がマニアの間で高騰してさ。これさえあれば、おれの店も一発逆転だ。ところで未緒、今度こそおれについてこないか」

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【掌編】齊藤想『雪の顔』 [自作ショートショート]

平成27年ゆきのまち幻想文学賞に応募して、予備予選を通過した作品です。

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 『雪の顔』 齊藤想

 モンタナの冬は早い。十一月に入ると町全体が冬化粧を始める。大地にはうっすらと霜が降り、町全体が白い靄に包まれる。大陸性の乾いた空気が大地をなぎ、辛うじてしがみついている草花を凍らせていく。
 住民たちは慣れたもので、秋風が吹き始めると早々に冬ごもりの準備を進めていく。これから長い冬眠生活が始まるのだ。
 わが家もすっかりとモンタナの冷気に包まれた。防寒用に特別に配置した二重ガラス窓もしんと凍りつき、夏には青々としていた芝生もとうに枯れ果てた。
 厳しい環境が続く外に比べて、冬支度の完了した室内は穏やかなものだ。
 暖炉にくべられたまきが火の粉を飛ばしながら弾け、安楽椅子に揺られている私の下半身を暖めてくれる。暖炉の上に置いてあるラジオは、雪雲などものとせず電波を受け続けている。
 燃料はいくらでもある。いざというときの保存食も蓄えてある。毎年繰り返される、何も変わることの無い光景。
「今年ももう冬ね」
 妻の感想に「ああそうだな」と私は自動人形のようにうなずく。
 ラジオは季節を置き去りにしたかのように、ビートルズの最新曲を披露している。わが家に届いたばかりのカラーテレビは、わが軍がラオスに侵攻し、ベトナム戦争がさらに泥沼化していく様子を不安そうに報道していた。
 変わっていくのは、日常から離れた遠くの世界だけ。ラジオとテレビを通じて、少しだけ世間とつながっている気分になる。
 私は不愉快な映像から逃げるように、暗くなった庭を眺めた。太陽が少し傾いたと思ったらまもなく夜のとばりが降り始める。
 日が蔭ると気温は一直線に下降する。出番を待ちかねていた雪雲は、準備万端とばかりに綿毛のような雪を吐き出す。
 ひとつひとつの雪が、ゆっくりと地上に降りてくる。様々な結晶が窓に映る。
 私は、白い珠をじっと見つめた。
 雪の結晶には顔がある。笑っている顔もあれば、泣いている顔もある。未来に希望を抱えた若い夫婦もいれば、日々の生活にいそしむ子だくさん三世代の大家族もいる。
 みんな別々の顔になって、私の目に飛び込んでくる。

 雪の結晶が人間の顔に見えるようになったのは、いつのころからだろうか。
 きっかけといえるようなものはある。大学の講演で聞いたある教授の言葉だ。
「空から降る雪には、ひとつとして同じ結晶はないのです。それは、人間ひとりひとり全て顔が異なるのと同じです」
 そのときはそうなのか、としか思えなかった。講演の後で自宅に帰ると、庭は一面の雪景色だった。その雪を踏みつけながら、庭を横切るとき、どこからか声が聞こえてきた。雪の結晶たちが、靴跡の下から「痛い、痛い」とささやいてくるのだ。
 最初はただの空耳だと思っていた。久しぶりの外出で疲れたのだろう。
 しかし、空耳は日を追って強くなり、いつしか、雪の結晶が人間の顔に見えるようになった。
 最初は踏まれて「痛い」と言っているのかと思った。しかし、後にそれは違うということに気づかされる。それは、私の心の底に潜む、重苦しい十字架。長らく封じ込めてきた地獄の門のさらにその奥に向って、言葉を投げつけてくるのだ。
「あなた電話よ」
 妻が私のことを呼ぶ。内容は聞かなくても分かっている。またあの話だ。
「もう話すことはありません」相手にそれだけを告げると、受話器を静かに置く。電話越しに愚痴のような声が漏れてきた。私は無視した。
 妻が私のことをたしなめる。
「少しぐらい話してあげてもいいじゃありませんか。あなたはいまでも英雄なのだから」
「元英雄だよ」
 私は唇の端を曲げながら答える。
「いまはベトナムで苦戦中なのだから、あなたのような英雄が国民を元気づけなくてどうするのですか」
「いや、その……」と私は声を濁した。戦争の英雄になるということは、敵国の人間をたくさん殺すことだ。そういう意味では、確かに英雄なのかもしれない。しかし、それは血塗られた英雄だ。恥ずべき勲章だ。
 そこまで思い浮かべると、私の心は遠くに飛んでいった。
 
 モンタナに移住したのは、第二次世界大戦終結後の間もない頃だった。
 この地を選んだ理由は特にない。戦争で十分に財を蓄えたので、第二の人生では牛や馬を放牧してのんびりと暮らそうと思った。
 人生設計は完璧だった。綻びはなにひとつ見つからなかった。モンタナの無垢な雪たちが、ひそひそ声で囁き始めるまでは。
 かつての戦地で、オリンピックが開催された。
 当時の私は長年英雄として祭り上げられていたこともあり、意気揚々として、占領軍が乗り込むような気持でオリンピックと日本観光を楽しんだ。まるで親のような気持で、日本人選手を無邪気に応援をした。日本人は総じて親切だった。
 もちろん、私を英雄にしてくれた現場にも向かった。一時は廃墟となっていたこの街もすでに戦争の面影はなく、復興した姿で旅行者を迎えてくれた。現地の資料館に飾られていた焼け野原になった降伏直後の写真を見ても、何の感慨も湧かなかった。ゴミ溜めのような町をゴモラの火で浄化した神様のような気持だった。感謝されても良いとまで感じていた。
 そのような私の気持ちを揺さぶったのは、ある本に掲載されていた一枚の写真だった。
 その白黒写真には顔かたちの判別がつかないほど黒こげになった遺体が写されていたが、なぜか背中に一部だけ白い肌が残っている。不思議だなあと思っていると、写真の隅に小さな黒こげの遺体があることに気が付いてしまった。
 この遺体は親子だった。赤ん坊をおぶっているときにやられたのだ。
 その瞬間、私が殺した三十万人という人間が、数字ではなくひとつひとつの顔となって迫ってきた。数字の数だけ人生がある。三十万の人生を、私は上司からの命令とはいえ、すべて消し去ってしまった。
 しかも、彼女たちは武器一つもっていない無抵抗の民だ。
 英雄だと祭り上げられていた自分が恥ずかしくなった。いや、本当は痛みに気が付いていた。それなのに、自分は英雄だと祭り上げられることを積極的に受け入ることで、込み上げる罪悪感に蓋をしていたのだ。
 私にとって誇れるものはなにもない。
 人生の全てが、嫌悪感という雪雲に包まれていった。
 
 モンタナにいると罰を受けているような気持になる。
 積もった雪は、いつかは溶ける。春になれば、ゆきたちは形を変え、まるで何もなかったかのように消えてしまう。
 冬の間、私にいろいろな話を聞かせてくれた雪たちは、太陽に焼かれ、悲鳴を上げながら顔かたちを崩していく。あの日、私は上空一万メートルにいて、見ることも気が付くこともできなかった。真夏の太陽の下で、気持ちよく飛行機を飛ばしていた。巨大なきのこ雲を見て喜んでいた。
 彼女たちは怒っているだろうか、それとも悲しんでいるだろうか。もしまだ生きていたら、どのような人生を歩んでいるのだろうか。どのような喜びを積み重ねているだろうか。
 妻が少し外に出ると、小さな雪だるまを持ってきた。
「近所の子供がたくさん作っていたから、ひとつもらってきたの」
 そうか、と私は答える。
「雪だるまは、何か話しているかしら?」
 私は息を飲んだ。妻はとっくの昔に気がついているわよ、という表情をした。
「雪たちだって、ジョーを苦しめるために降っているわけじゃないの。高いところで偉そうに座っている雪雲に命じられて、地上に向っただけ。そのあげくに踏みつけられ、春になれば太陽に溶かされ、ときには雪だるまにされる」
 妻はひと呼吸おいた。
「それが人生というものよ。だれも助けてくれない。人生の価値は自分で決めるしかない。たとえそれが苦痛に背骨が歪むような悲しい出来事だったとしても」
 テーブルの上に妻が淹れたコーヒーが置かれた。台所からリビングまで湯気が線のように繋がり、空気に染み込むように香気が広がっていく。
 雪はいつしか消えていく。
 私もいつか、雪のように、人生から消えていく。それまで、良心にさいなまされ、苦しめらながら、妻と手を取り合いこの地で生きていく。神の助けは決して来ない。
 それで良いのかもしれない。ふと、そんなことを思った。

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【掌編】齊藤想『ドラえもん』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房(第31回)に応募した作品です。
テーマは「質屋」でした。

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『ドラえもん』 齊藤想

「これもういらない」
 と、のび太は古ぼけた青いロボットを台車からおろすと、そのまま床に転がした。眼鏡をかけた質屋の店主は、二頭身のタヌキのような機械をひっくりかえした。ロボットだが、死んだ魚のような目をしている。顔のパーツは全体的にバランスの悪い配置をしているが、中央の赤い花だけが、まるで荒野に咲く一輪のバラのように、強く印象に残った。
「これは二十一世紀の猫型ロボットだな」
「そう」とのび太は冷たく言った。
「こいつ、すごく面倒くさいんだ。ぼくのことを助けてくれるといいながら、秘密道具を出しおしみして、毎日ように小言ばかり。ぼくがジャイアンに暴力を振るわれようが、先生に説教をされようが、おかまいなし。お母さんよりひどいんだ」
「暴力を肯定するわけではないが、ジャイアンや先生を怒らせたのは、君にも原因があるのではないのかね。彼の小言は、君のことを心配したからではないのかね」
「そんなの関係ないね」のび太はぶっきらぼうに言った。「おれはこいつのことを呼び寄せたわけじゃない。二十一世紀の技術かなんだか知らないけど、無断でタイムマシンを机の引き出しに繋げてきて、部屋に現れるとおれのことを助けてやると、こいつが宣言したんだ。居候させてやっているんだから、おれの命令を聞くのは当然だろ」
 店主は、愛嬌のある顔をしたロボットのひげを引っ張った。鋼鉄のように硬くて曲がらない。店主は、ロボットにも死後硬直があるのかと思った。
「こいつ、電源を落とすと固まるんだ。そしたら重くてさあ」
 のび太はスニーカーのつま先で、胴体を蹴飛ばした。狭い店内に、ドラム缶を叩いたときのような音が反響する。
「それで、これから君は誰の助けを借りるのかね」
「明日からドラ左衛門がやってくる。こいつはドラえもんを超える、二十二世紀のロボットだ。ポンコツより絶対に役に立つ」
「そのドラ左衛門を君はどうやって呼んだのかね」
「こいつに命令した」のび太は猫型ロボットの腹に足の裏を載せて、激しくゆすった。
「こいつのことを、この役立たずと散々ののしって、代わりにもっと優れたロボットを寄こせと要求したんだ。最初は抵抗したけど、最後はあきらめたのか、ドラ焼き三個と交換契約成立だ」
「それで」と店主は先をほどこした。
「そうしたら、こいつはドラ焼き三個を子供のように食い散らかし、お母さんの入れてくれたお茶を老婆のようにすすると、いままでお世話になりまたと祝捷にも額を畳にこすりつけてきた。そして、立ち上がると、いきなり電源を落としやがった」
 のび太はいまいましそうに、ロボットを見下した。
「そうしたら、死んだロボットの重いのなんのって。最初は粗大ごみに出そうかと思ったけど、もしかしたら金になるかと思い直し、ここまで運んできたというわけよ。それで、親父さん、こいつをいくらで買い取ってくれるか?」
 のびたは指先でわっかを作った。店主は悲しそうに首を横に振った。
「未来の商品は買えません。お持ち帰りください」
「そんなこと言われてもよう」とのび太は口を尖らせた。ここまで台車を押してきた苦労を喚き散らし、それでも店主が翻意しないとみると、ゴミ処理費を負担することもなく勝手に処分してくれと捨て台詞を吐いて立ち去った。
 店主はため息をついた。のび太がいなくなると、店主はロボットの尻尾の先についている赤い玉を強く引いた。店主は猫型ロボットについての知識があった。死んだ目に光が宿る。
 苦労を重ねてきたロボットに、店主は優しく声をかけた。
「また失敗したようだね」
「うん……」と起動したばかりのロボットは悲しそうにつぶやいた。
「けど、次こそはうまくいく気がする。のび太を救えるのは自分しかいないんだ。だって、ぼくが頑張らないと、のび太は……」
「ああ、分かっているよ。君の好きなようにすればいいさ。私はいつでも待っているから」
 店主は大きな雑巾でロボットの全身をぬぐった。この様子は、まるでくすぐられる猫のようだと思った。
 清潔さを取り戻した猫型ロボットは、質屋のカウンターの裏側にあるタイムマシンに乗り込むと、再び旅立っていった。二人が初めて出会った、あの日ののび太のもとへと。

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【掌編】齊藤想『一打席』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房(第30回)に応募した作品です。
テーマは「花火」でした。

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『一打席』 齊藤想

 小沢弾道は、なぜ自分がプロ入りできたかも分からなかった。
 甲子園には三年間を通じて縁が無く、実績といったらプロ入り確実と噂された強豪校のエース左腕から地区予選でホームランを打ったぐらいだ。
 もちろんまぐれ当たりで、あとの三打席は完璧に抑えられた。チームも負けた。
 高校三年生のとき、冗談のようにプロ志望届けを出したら育成選手として拾われた。いわば三軍のような扱いだ。
 プロ入りした小沢は、コーチから奇妙な指示を与えられた。
「他の練習はしなくてよい。左腕のスライダーを打つ練習をひたすらしなさい」
 強豪高のエースから放った弾道を、ひたすら思い出すかのような練習だった。
 しかし、同じ練習を三年続けていると、さすがに焦りがでる。育成選手の契約期間は三年間だ。再契約も可能とはいえ、ひとつの目安であることは間違いない。
 それがシーズン終盤になり支配下選手登録、簡単に言うと二軍に昇格し、日本シリーズ直前に一軍と帯同することになった。
 プロ入りしたときと同じく、小沢にはなぜ一軍になったのか分からなかった。
 監督のサプライズ人選に注目されるかと思ったら、記者会見で監督は「まあ、一芸に秀でているから、使う機会もあるでしょう」とそっけないものだった。
 無口な監督は、ときおり意表をつく選手起用をする。引退直前のピッチャーを開幕投手に起用したり、一人一回、九人の継投で完封勝ちしたこともある。また監督の気まぐれかと記者たちも思ったとだろう。
 それにしても、なぜ小沢なのか、自分でも分からなかった。

 日本シリーズは一進一退の攻防が続いた。
 チームが勝利を挙げると、相手チームが取り返す。オセロのような展開に一喜一憂しながらついに第七戦にまでたどり着いた。
 この試合に勝てば優勝だ。もちろん小沢に出番は無い。
 大一番に先発として起用されたのは、両チームともローテーション通り三番手投手だった。シーズン最後の試合なので、両エースも準備を怠らない。
 試合はいままでの疲労が蓄積されたかのような乱打戦となり、六回終わって七対七の同点だった。
 寡黙な監督がコーチに何事かつぶやいた。うなずいたコーチが小沢に声をかける。
「いまから振っておけ」
 代打の準備だ。一軍経験が皆無な小沢に声がかかる理由が分からない。
 小沢は日本シリーズになって急に呼ばれた監督の意図を、主力選手へのあてつけだろうと思っていた。油断していると試合に出れなくなるぞという警告だと感じていた。
 だから、本当に出番がくるとは思っていなかった。
 最終回になった。チームは一点を追いかける展開だった。最終回のマウンドに立つのは相手チームのエース。三年前に地区予選でホームランを放った、強豪高の左腕だ。
 彼は野球エリートらしく、入団二年目から活躍していた。
 四球でランナーがひとり出たところで、小沢が呼ばれた。監督が直々に声をかける。
「三球目のスライダーを振りぬけ」
 初めて生で聞く監督の声だった。感動で体が震える。
 そこから先は、夢見心地だった。直球が続けてボールとなり、ストライクを取りにきた三球目を振りぬくと、まるで高校時代のように、綺麗にレフトスタンドに飛び込むサヨナラホームランとなった。
 歓喜の渦。チームメイトからの手荒い祝福。
 そして、小沢のプロ生活はこの一打席で終わった。
 小沢が育成選手で登録されたのも、ずっと同じ練習を続けたのも、日本シリーズ直前で一軍に登録されたのも、すべてはこの一打席のためだった。
「同じ作戦は二度と通用せん」
 監督はそう言ったそうだが、小沢には悔いは無かった。
 ほどなくして引退した小沢は、自分のプロ野球生活を振り返った。
 自分はまるで花火だ。リトルリーグに入団した小学一年生から、一振りのために、十五年間も努力を重ねてきたようなものだ。
 小沢は思う。もし、小学一年生のとき、未来を告げられていたら、野球を続けていただろうか。と聞かれたらどう答えるだろうか。
 答えはもちろん「YES」だ。一瞬の輝きは、何によりも美しいものだから。

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【SS】齊藤想『耐久テスト』 [自作ショートショート]

2016年大阪ショートショートで最終選考まで残った作品です。
テーマは「復活」でした。

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『耐久テスト』 齊藤想

 新型二足歩行型アンドロイドの試作機が完成した。
 基本的なテストは実験室で行われてクリアーしたが、まだ実地試験が残っている。この新型機を市販するためには実際に運用し、人類に危害を与えないことを実証しなくてはならない。
 この試験のために、新型機はまだ文明の発達していない殖民惑星に派遣された。知的に劣っている原住民たちの攻撃にさらされても、相手に危害を加えることなく、自らを守り続ければ合格となる。
 
 最初の実験場として選ばれたのは、高温多湿の地域だった。精密機械にとって、高温と湿度は最大の敵だ。この環境に耐えられてこそ、耐久テストの意味がある。
 新型機は川べりで眼を覚ますと、この地域を治める王の元に向かった。身なりや顔つきを整えることで人知れず王子と入れ替わると、安楽な生活をむさぼるようになった。原住民との知力の差が大きいため、このくらの芸当はお茶の子さいさいのようだった。
 城に居座られてはテストにならない。研究室はアンドロイドに指令を与えて強制的に放浪の旅に出すことにした。大雨の中を行く当てもなく歩かせ、ときには大河の飛び込ませた。それでも故障することはなかった。
 彼は厳しい環境に耐え、旅の途中で原住民たちの心を掴むことに成功し、多くの人に慕われるようになった。原住民の精神向上にも貢献した。テストとしては上々の成績だ。
 実証データは充分に揃ったので、彼は木の下で眠らせることにした。原住民たちは死んだものと思って、墓を立てた。
 時代が下ると、彼を祭る神殿のいくつかに「遺骨」と称する物体が埋められるようになった。ロボットである彼が骨を持つことはないので彼らが崇め奉る遺物が偽物であることは論を待たないが、原住民とは不思議な生物である。

 二号機は砂漠へと向かわせた。
 高温多湿の環境をクリアーすることができたので、今度は乾燥した地域でテストを行うことにした。
 二号機も一般家庭に紛れ込み、一号機ほどではないがほどほどの生活を始めたので、これも旅に出させることにした。
 彼は砂漠と荒野を歩き続けた。乾燥と紫外線に充分に耐えた。彼は一号機を同じように旅の途中で原住民の心を掴むことに成功し、多くのひとに慕われるようになった。
 一号機との違いは、支配者層に睨まれたことだった。
 彼は捕らわれ、市内を引きずり回され、槍と釘を何本も突き立てられた。最新鋭のロボットなので、この程度のことで破壊されることはない。しかし、さすがに死んだことにしないとまずいので、一旦は機能を停止させた。原住民たちは死んだものと思って墓を立てた。
 夜中にこっそりと回収しようと再起動させたところ、原住民に見つかって大事件になりかけた。正体がばれることも覚悟したが、なぜか「復活した」と有難がられ、彼をたたえる聖典に奇跡として記載されることとなった。もちろん二号機が事前に「私は復活する」と宣言したことはないが、伝説に伝説が重ねられる過程で復活を予言し、その通りに復活したこととなった。原住民たちの想像力には恐れ入るしかない。
 いずれにしても原住民たちの知力の低さに助けられた部分はあったものの、実験の成果としては上々だった。
 こうして実地試験をクリアーした新型アンドロイドは発売されることになった。いまでは各家庭に普及しているごくありふれた商品だ。

 なお、試作機はあまりにも原住民たちに愛されたがゆえに、一号機は”仏陀”、二号機は”キリスト”と呼ばれ、いまだに彼らの歴史にその名を留めている。

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【掌編】齊藤想『傘職人』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房(第29回)に応募した作品です。
テーマは「かさ」でした。

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『傘職人』 齊藤想

 「武士は食わねど高楊枝」という言葉がある。武士たるもの貧しくとも堂々とせねばならぬという気高き魂を唄ったものだ。しかし、父上は食うためにひたすら傘貼りの内職をしている。
 六畳長屋に並ぶ傘たちをみると、清太郎は「これは内職ではなく本職だ」と思わざるを得ない。そもそも父は旗本の身分も売り払ってしまい、形式上は武士だが、実質的には町民と同じ生活をしている。
 身分売買の仕組みは簡単だ。金銭を受け取る代わりに成金どもの息子を養子として迎え入れ、本人は隠居届を出してひっこむ。これで売買完了だ。
 いまや父は憐憫の情をもって高利貸しからあてがわれた長屋の一部屋で、ほそぼそと傘貼りの内職にいそしんでいる。
「おい清五郎」
 先祖代々の屋敷を失った父が言った。「ちょっと傘を外にだしといてくれ」
 清五郎は情けなく思った。祖先は名もない足軽だったが、大阪の陣で先陣を切って槍をふるい、夏の陣では城内になだれ込み名のある将を打ち取った。
 その功績で旗本に抜擢され、長年家禄を守り続けていたのに、父といったら生来のずぼらさが災いしてまともな役目につけず、いつしか蓄えを食いつぶし、ついには武士の身分も失ってしまった。
「この傘はきれいだとはおもわんか」
 父は狭い長屋で一本の傘を開いた。四畳一間の長屋暮らしで、室内で傘を開くのは危険極まりない。頭を払われそうになった母が露骨に顔をしかめた。
「骨ごとに違う和紙を張り合わせた。江戸っ子は派手好きだ。こういうのを店先に出せば売れるとおもわんか」
 清五郎は軽蔑のこもった目で、父を見返した。浦賀には黒船が来襲し、寺小屋仲間だった為助の父は二本刺しを抱えて海岸まで走ったというのに。
「商人の下請けだけではだめだ。わしは自分の力で一旗揚げて、儲けたいのだ」
「父上」
 あまりの浅ましさに、清五郎の声は鋭くなった。もはや父ではないと思った。
 清五郎は刀をもって立ち上がった。拵えは立派だが、中身は竹光だ。本物はとうの昔に質流れしている。
「どこへ行くのだ」
 浦賀に決まっている。
「外に出たついでに傘を開いて並べてくれ。売り物だから丁寧に扱うのだぞ」
 清五郎は返事の代わりに新品の傘を蹴飛ばして、黒船へと向かった。

 浦賀では散々だった。
 幕府の役人にまるで浮浪者のように追い立てられた。黒煙を吐く巨大な船に恐れおののいた幕府は、アメリカの小役人相手に土下座をするようにして開国が決定された。
 日本はめまぐるしく動いた。清五郎は長屋に戻ることはなく、尊王攘夷を叫び、志士として刀を振るい続けた。
 父のことは一度だけ外国人居留地で見かけた。例の派手な傘を売り歩いていた。青目鬼どもは喜んでいたようだった。
 清五郎は、まるで女形のように柳腰で頭を下げる父を見て、情けなくて涙が出た。
 時代は容赦なく流れていく。薩摩と長州が蜂起し、鳥羽伏見の戦いで惨敗した幕府は戦うことなく江戸城は明け渡し、北へと続く戊辰戦争もほどなく終結した。
 清五郎は志士仲間が起こした会社に就職し、商社のまねごとのような仕事を始めた。食べるためには理念を横に置いておくしかなかった。

 江戸は過ぎ去り、矢田挿雲の江戸を懐かしむエッセーが好評を博すようになった。
 何十年ぶりに実家にもどると、父はまだ生きていた。ざんばり頭になった息子の顔を見て「変わったものよのう」とただひとことつぶやいただけだった。
 清五郎は確信した。父は知っていた。まもなく幕府が崩壊し、商人の世が来ることを。
 「父上」背中に声をかけても、父の手の動きは止まらない。
「教えてください。侍の時代が終わると、いつ気が付いたのですか」
 父はしばし何かを考えるような姿をした。
「昔しすぎて忘れてもうた。ただ、ひとに喜ばれる仕事をしたくてのう」
 それだけいうと、職人の顔に戻った。もう武士の面影は一厘も残っていない。
 清五郎は過ぎ去った時代を懐かしみながらも、父の選択は正しかったのかもしれないとぼやけた頭で思い始めていた。

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【掌編】齊藤想『第二ボタン』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房(第26回)に応募した作品です。
テーマは「ボタン」でした。

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 『第二ボタン』 齊藤想

 これは一種の病だったのかもしれない。けど、このボタンだけは真実だと信じたい。
 中学時代、あこがれの先輩から制服の第二ボタンをもらうことが流行していた。大人気の先輩になると、ポケットに予備のボタンを大量に入れておき、じゃらじゃら言わせながらご褒美の飴玉みたいに後輩へ渡していた。
 けど、私の先輩は違う。その瞬間はいまでも脳裏に焼き付いている。
 ある日の夕方。仲良しの美穂が先輩を呼んできてくれた。がらんどうになった放課後の校舎の四階。ひとけのない廊下の行き当たり。私の目の前、わずか十五センチ前に立つ先輩。気を利かした美穂がそっと遠ざかる。夕日が妙に赤い。
 傾いた太陽に押されるようにして、私がさらに一歩前に出る。両手を胸の前で交差させる。いつも遠くで見ていました。先輩がスリーポイントシュートを決めるときの、軽く膝を曲げてからカエルのようにしゅっと、いや違った、バッタのようにピョンと、これも違う。上手くいえないけど、とても素敵でした。
 あれだけ前日に第二ボタンをもらう練習してきたのに、先輩の前に立つと頭が真っ白になってしまう。それだけ大好きだった先輩。
 慌てふためく私の姿を見た先輩は、軽く笑いながら「これだよね」と、大きな手で第二ボタンを包み込んだ。指先がくるりと回転して、しばらくして私の手のひらに乗せられる暖かなボタン。私はボタンを握り締めて、先輩の体温を手の内に閉じ込める。
「なんかスースーするなあ」
 先輩はボタンがひとつ取れた制服を、いたずらっぽく見せた。
 その先輩とは、それっきりだった。それでも先輩かから受け取った第二ボタンは、いまも宝物として、机の奥にしまってある。

 高校卒業後、その先輩から一通の手紙が届いた。大学を中退して手品師としてデビューしたのだという。招待状も同封されていた。
 私は喜んで先輩のステージに駆け付けた。会場に入ると、中学時代の同級生がたくさん並んでいる。どうやら先輩は中高時代の名簿で招待状を発送したようで、まるで同窓会のようだった。もちろんあの先輩と引き合わせてくれた美穂の姿もあった
 先輩の初舞台は、テレビにもで出演したことのある有名手品師の前座だった。もともと器用だった先輩は、その大きな手を活かして様々なものを隠したり出したりしていた。何も無いところから巨大トランプが出てきたと思えば、次の瞬間には消えている。
 先輩の手品は本物だった。
 短い持ち時間の中で、バスケットボール部で活躍していたときのように、精一杯の演技を続けている。荒削りながらも才能を感じる手さばきに、同じ中高の仲間たちだけでなく、有名手品師を目当てに来場していた紳士淑女たちも惜しみない拍手を送っていた。
 先輩は輝いていた。自分の道を見つけた大人の笑顔だった。私は自宅から持ってきた第二ボタンを、強く握り締める。やっぱり先輩は素敵だった。
 一通りの演技を終えた先輩は、最後に客席に向ってこう語りかけた。
「私が始めて手品をしたのは中学三年生のときです」
 少し嫌な予感がする。
「そのころ第二ボタンを渡すのが流行っていまして、私は後輩にせがまれたときに断るのも悪いと思い、ボタンを取る振りをして別のボタンを彼女に渡しました。制服のボタンを外してボタンが取れた振りをしたところ見事に後輩はひっかかり……」
 あとは聞けなかった。私は単なる実験台だった。純粋な気持ちを踏みにじられた。家から持ってきたボタンを「これがそのときのボタンよ!」と叫びながらこの場で投げ付けたかった。けど、先輩の初舞台をダメにしたくない。その思いだけで踏みとどまり、耳をふさいで屈辱を耐え忍んだ。けど、涙は止まらなかった。
 休憩時間になって、私はハンカチで顔を覆いながらロビーに出た。すると、同級生だった美穂が追いかけてきた。
 興奮した様子の美穂に、私は胸が詰まった。
「ねえねえ感動的だったと思わない! だって、初ステージで告白なんて、びっくりしちゃって」
 その相手は私ではない。くらくらする私を、美穂が強く手を引く。
「手品への道に導いてくれた後輩に感謝の念をこめて告白しますなんて、粋な先輩じゃない。あのときは自分に自信が持てなくて第二ボタンを渡す勇気がなかったけど、いまなら渡せるって。さあ、楽屋まで急いで」


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【SS】齊藤想『金星の雲』 [自作ショートショート]

第4回星新一賞に応募した作品です。
理系小説をイメージしてみました。

――――― 

『金星の雲』 齊藤想

 金星の雲が晴れようとしていた。
 研究が始まって何万年たつのかすら分からないほど長い実験が、いまやフィナーレを迎えようとしている。
 惑星気象学研究所の所長は、金星に向けていた望遠鏡から目を離すと、太陽系第二惑星の開発がここまで進んだことに満足の表情を浮かべた。
 金星へのテラフォーミングに向けての実験が始まったのは、もう記録を紐解くのも難しいほど古い時代のことだった。
 金星は地球と極めて類似している。岩石組成もほぼ同一で、大きさもシルエットを並べるとどちらが地球かわからないほどだ。公転軌道もすでにテラフォーミングされている火星と比べれば遥かに地球と近い。重力だって1割程度しか変わらない。
 それでは、なぜ、金星へのテラフォーミングが進まなかったのか。火星より遥かに出遅れてしまったのか。
 それは気温にある。
 金星大気は地球の九〇倍もの圧力がある上に、組成の九割以上が二酸化酸素という、まるで透明な毛布で何重もくるまれたまま灼熱の砂漠に置き去りにされたかのような惑星だ。その二酸化炭素による強力な温暖化作用によって金星の地表面は四六〇度を超え、さらに上空では高温をエネルギー源にしたスーパーローテーションと呼ばれる時速一八〇キロから三六〇キロにも達する強烈な風が吹き続けている。地球の台風など、金星のスーパーローテーションと比べればおままごとのようなものだ。
 逆に言えば、温度の問題さえ解決すれば、金星は火星より遥かに住みやすくなる。
 豊富な大気に、ありあまる炭素。火星のようにわざわざ地球から資材を運ばなくても金星内で自活できる。気温さえ安定すれば、風も静まり、小春日和が続くことだろう。
 唯一の難点は水だが、これも大気中に僅かに含まれており、金星の大気からかき集めれば人間が生活する分は確保できる見込みがある。
 意外に思われるかもしれないが、温暖化作用がなければ金星は地球より寒い。
 温暖化作用が無いものと仮定して計算される理論上の気温のことを有効放射温度と言うが、地球の有効放射温度が約零下二〇度に対し、金星は約零下五〇度まで下がる。
 地球より三〇度も低くなる原因は分厚い大気だ。金星の雲は太陽光線をことごとく反射してしまう。理論的には地球の一.九倍もの太陽エネルギーを受けているにも関わらず、大地まで届く熱はほんのわずかだ。
 つまり、金星大気中の二酸化炭素量を減少させ、気温十五度前後で均衡するように温暖化作用をコントロールすることができれば、金星を地球とほぼ同じ環境にすることが可能になるのだ。
 人間が生活する基盤さえできれば、先ほど唯一の問題と論じた水分はなんとかなる。分厚い大気から水をかき集めても良いし、足りなければ地殻内に含まれている成分から水素と酸素を分離して合成させても良い。彗星から獲得する方法もある。また、金星には硫酸の雨が降っており、硫酸の化学式はH2SO4、つまり硫酸から硫黄と酸素原子2個を引き剥がせば水が得られる。
 住み着いてしまえば、アイデアはいくらでも湧き出てくるものだ。
 なにはともあれ、問題は二酸化炭素である。
 どうやってコントロールすべきか、昔の地球人はいろいろ考えた。
 最初は二酸化炭素とカルシウムを反応させて、石灰岩として固定することを試みた。
 地球誕生当時の大気は、金星とほぼ同じ組成であると推定されている。それがなぜ地球では二酸化炭素量がわずか0.04%まで減少し、金星は96.5%のままなのか。
 兄弟のような惑星の運命を分けたのは、”海”だった。
 地球上の二酸化酸素は海に溶け込み、カルシウム成分と反応して石灰岩となって固定された。穏やかな気候は植物の繁栄を促し、膨大な植物自体が炭素の貯蔵庫であるのと同時に、寿命の尽きた植物も石炭や石油として地下深くに封印されることで、炭素の固定化が促進された。
 金星には海もなければ植物もない。
 惑星が誕生した当初は海があったと思われるが、金星は地球よりわずかに太陽に近かったため温暖化が早く進んだ。その結果、海が二酸化炭素を取り込むより前に蒸発してしまい、二酸化酸素を固定するチャンスを失ったのだ。
 水蒸気となった水分は大気上層部で紫外線の作用により酸素と水素に分離した。水素は軽いため宇宙へと逃げ出し、酸素は地表の酸化に使われた。蒸発した水が雨として再び大地に戻るには、金星は暑すぎたのだ。
 こうして、金星は生まれたままの大気をいまも保ち続けている。
 金星移住には幾重もの困難が待ち構えている。だからといって、弱音を吐いてばかりもいられない。人類が地球だけで生活するのはいずれ限界が来る。まずは火星、次に金星へ進出するのは歴史的必然ともいえる。
 火星移住計画は金星より早く進んだ。火星は水が豊富な惑星で、少し掘れば氷がでてくる。だが重力が弱く大気を保持できないため、巨大なドーム建設が必要になる。もちろん原材料は火星にある鉱脈から掘り出すのだが、精製するのにも莫大な燃料と設備が必要で、結局のところ地球を頼りにせざる得ない。また、地球と比べて水の循環や造山活動が弱かったため鉱脈が細い。実験的に移住するならともかく、大々的にテラフォーミングできる環境ではないことが判明している。
 こうして、人類の眼は金星に注がれた。
 二酸化炭素の処理については種々の議論があり、最終的に二案が残った。A案は二酸化炭素を酸素と炭素に分離する特殊な触媒を開発することだった。太陽による紫外線をエネルギー源として、二酸化炭素から炭素を取り除き、炭素を地表に蓄積させようというのだ。
 理論的には可能だが、問題は実現性である。計算の結果、A案は天文学的数字の触媒をばら撒く必要があることが判明し、結局のところ「現在より格段に効率の良い触媒が開発されるのを待つ」という名目で棚上げをせざるを得なかった。
 もうひとつは植物案である。
 わずかな水分でも繁殖可能な植物を開発し、それらを金星の大気に漂わせることで、炭素の固定化を促進しようというのだ。
 そして、採用されたのは植物案だった。
 研究対象としてシアノバクテリアに注目が集まった。シアノバクテリアは地球の運命を変えた細菌と呼ばれており、地球上で始めて光合成を始めた由緒ある生命体だ。
 シアノバクテリアの反応は水を大量に使う。産み出す酸素も水を分解して得られるものだ。そのため、このままでは金星で繁殖することができない。金星は水が乏しく、節水型の反応が求められる。
 そこで、シアノバクテリアに強化したカルビン・ベンソン回路を導入することが試みられた。強化したカルビン・ベンソン回路は無限ともいえるほど、ひたすら炭素を繋げる。二酸化炭素を炭素として固定するためだけに生まれた細菌だ。
 研究はうまくいった。新しいシアノバクテリアは水をほとんど消費することなく光合成を行うが、その変わりにエネルギー多消費型の生物となってしまった。主として赤色を吸収する従来型の植物ではエネルギー不足であるため、黒色を帯びさせてあらゆる太陽光を効率よく吸収させることにした。
 こうして新しい細菌が誕生した。彼らは太陽光を貪欲に取り込み、微かな水分を触媒として再利用しながら、光合成によってひたすら炭素鎖を連ねていく。
 一般的に、植物は光合成をフル回転で行うことはない。自らを守るために休息を挟みながら反応する。しかし、新しいバクテリアからその制限を取っ払った。その代償として極端に寿命が短くなったが、死ぬ以上に繁殖力が旺盛なので問題はなさそうだった。
 この人工的に誕生した新種の細菌は、ブラックバクテリアと名付けられた。黒い植物の誕生だ。
 少し育ててみたところ、世代交代が早いだけに次々と突然変異を起こし、いまやありとあらゆる環境に適応しそうな勢いだった。毎日のように進化を続け、いまや二酸化炭素さえあれば、水星や冥王星でも生きられそうだった。
 どうやら人工的に遺伝子を改変することを繰り返したため、遺伝子の結合が弱い……いわば突然変異を起こしやすい性質になったようだ。
 この特質は、偶然とはいえ、新たなる環境に送り込むのに最適な要素だった。
 実際に実験室において、金星で考えられるあらゆる環境で繁殖させたところ、次々と耐性を獲得し、中には濃硫酸にも耐えられる個体も誕生した。
 もはや金星では敵なしだった。それどころか、太陽系のどこでも生きていけるかもしれない。想定外の環境に遭遇したとしても、彼らなら乗り越えていけるだろう。
 このバクテリアが研究所から漏れたら大変なことになる。研究者ですら立ち入り禁止の地下深くに密閉された厳重に管理された施設で増殖させることになった。全ての作業は遠隔作業で行われ、ロケットに積み込む際も収納容器の外側を特殊カーボン繊維が溶けるほどの炎で炙り、厳重に消毒させた。
 こうして誕生したブラックバクテリアを、繰り返し金星にばら撒いた。
 金星が生まれ変わるのに時間がかかると見込まれたので、研究所は閉鎖させられた。不慮の事故による拡散が恐れられたブラックバクテリアは徹底的に焼却させられた。そうして、いつしか研究は忘れ去れらた。
 ブラックバクテリアは金星で大繁殖をした。一時期は金星が黒く染まるほど増殖し、そのころには研究は遠い昔の話だったので、真実が発掘されるまで黒い雲の原因は何だと天文学者を悩ませ続けた。
 金星の改造は順調に進んだ。
 二酸化炭素が減少し、気温が下がり始めた。大地はブラックバクテリアが生産する多種多様な高分子有機物に覆われた。
 ブラックバクテリアが二酸化炭素を食べ続けているといっても、まだまだ金星の気温と気圧は高い。低地に溜まった有機物は金星特有の高気温と高圧力によって組成変化が起こるとともに液化し、原油の元となるケロジェンの海が誕生した。
 いまの技術があれば、ケロジェンを原油にするのは容易だ。
 はるか昔に原油を掘りつくしていた地球からは大喝采があがったが、輸送の困難さと将来の金星開発のために保存すべきだとの意見が大勢となり、そのまま様子を見ることとなった。
 金星の変化は止まらない。
 酸素が増えてオゾン層が形成され、その巨大なオゾン層が有害な宇宙由来の放射能をシャットアウトした。組成が変化した大気がほどよく太陽光を反射し、かつ温暖化作用が抑えられたことで、金星に穏やかな気候が訪れた。スーパーローテーションも消滅した。
 二酸化酸素が炭素として固定化されたことで大気の厚みが減少し、希薄だった水分が地表部に濃縮されたことで雲まで浮かぶようになった。振り続けていた濃硫酸の雨も、進化したブラックバクテリアによって、水と酸素と硫黄に分解された。
 ブラックバクテリアの繁殖は止まり、新たなる環境に適合した生命体が続々と産まれた。世代交代が早いおかげで、進化のスピードも桁違いだった。
 いまや金星は生命が満ち溢れる惑星へと変化した。
 ここまで金星が変わるのに、何世代かかったのだろうか。

 時は満ちた。いまや金星は人類を待ち構える桃源郷となったのだ。

 惑星気象学研究所の所長はいままでの経緯を振り返ると、緊急警報を鳴らし続けているテレビ画面を見つめながらひとりごちた。
 ここまで研究が上手くいくとは、当時の人類はだれも思っていなかっただろう。ここまで完璧に金星が生命のゆりかごになるとは想像すらしなかったに違ない。人類の英知は、期待以上の成果を上げたのだ。後世に誇れる大事業といえる。
 ただ、たったひとつの誤算といえば、ブラックバクテリアが急激な勢いで進化して知的生命体となり、いまや大挙して地球を攻めてこようと進軍中であることだけなのだが。

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【SS】齊藤想『魔女の消しゴム』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房(第25回)に応募した作品です。
テーマは「消しゴム」でした。

――――― 

『魔女の消しゴム』 齊藤想

 オー・ヘンリーの傑作短編に、『魔女のパン』というパン屋を営む中年女性が主人公の作品がある。彼女は貧しい画家に恋をしていた。その画家はいつも、古いパンを2個だけ購入して、彼女の店を出る。
 彼女は同情心から彼のパンにそっとバターを挟む。そうしたら次の日、画家は血相を変えて彼女の店にやってきた。
 彼はパンを食べるためではなく、設計図の鉛筆の線を消すために購入していたのだ。彼女が挟んだバターのせいで、完成直前だった彼の作品はダメになってしまったのだ。

 というような話だ。
 実は、いまの私は彼女と似たような境遇にある。貧しい画家に恋する乙女。オー・ヘンリーの短編との違いといえば、彼女はパン屋。私は文房具屋。彼女は経営者で、私はただのアルバイト。けど、そんなのは大した違いではない。愛する人がいる。その人が毎日のように来店する。そのことが大事なの。
 私の愛しい人は、今日も粗末な身なりでお店にやってくる。
「いらっしゃいませ」
 私は精一杯の笑顔を彼に向ける。
 彼は店長がいないときだけやってくる。彼は少し恥ずかしそうにうつむくと、狭い店内をぐるりと一周し、消しゴムのコーナーで足を止める。彼はそこで小脇に抱えたスケッチブックを開いては、消しゴムの試し消しをする。
 ときには勝手にパッケージを明けて、お試し用に使ってしまう。お店からすれば褒められた行動ではない。けど、私はそれを見て見ぬ振りをする。
 お試し用の消しゴムは彼のためにある。何でも消せる強力な一品。彼はポケットから鉛筆を出しては、何かを描く。そして、消す。
 彼は消しゴムが買えないほど貧しいのかもしれない。そのような彼のために、店長には内緒で、特殊用途の高級消しゴムを試供品コーナーに置いたりする。最後の一粒まで黒鉛を取る素晴らしい商品だ。この商品を置いたとき、彼は嬉しそうにほほえんだのを、私は見逃さなかった。
 彼はどのような絵を描くのだろうか。あの優しそうな瞳、優雅な指先。きっと、美しい女性をデッサンしているに違いない。裸の女性が、彼の前で艶めかしい肢体をさらす。
 そのような想像をして、ときおり胸が痛くなる。
 ふっと目があった。
 彼が私のことを見ている。大きく開かれたスケッチブック。細身のジャケットから伸びる腕が小刻みに動く。そして、ときおりレジに向かう彼の視線。
「描かれているのは私だ」
 そう気がついて、私は嬉しくなった。何の変哲も無いこの私。髪の毛はボサボサ、メガネはやぼったく、スタイルだってずんどう。こんな私を、彼は、モデルとして認めてくれている。
 彼は消しゴムのためではなく、私のためにこのお店に通ってきてくれている。
 彼はスケッチブックを閉じると、さわやかな笑顔とともに店を出た。言葉は交わしていないけど、お互いの気持ちが通じたようで、私は幸せだった。

 彼との余韻に浸る幸せな時間は、外から聞こえてくる店長の罵声によって遮られた。軽い乱闘騒ぎのあとで、がさつな店長が、店を出たばかりの彼の華奢な腕を捻り上げながら入ってきた。
 どうやら近くで店の様子を見張っていたらしい。
「お客様に何をするのですか」
 私の精一杯の抗議に、店長がだるまのような目を向ける。
「お前の目は節穴か」
 店長が彼のジャケットをひっくり返すと、そこから高級文房具が山のように出てきた。
「彼は窃盗の常習犯だ。店内でスケッチブックを広げて毎日のように堂々と万引きしているのに、顔を赤らめて見て見ぬふりをするとは何事か!」


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齊藤想『不都合な落し物』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房(第23回)に応募した作品です。
テーマは「落し物」でした。

――――― 

『不都合な落し物』  齊藤想


 春一番が吹き荒れるある日の午後。
 ぼくの目の前にカツラが落ちている。そして、少し前方に、信号待ちをしている見事な禿頭。彼の頭頂部は春の日差しに照らされて、まるで書初め展で入選し、初めて経験する表彰式で喜びを隠せない小学生のように輝いている。
 彼はベテランのサラリーマンだろうか。その彼のでこぼこした頭の上を、朝から吹き荒れる春一番が通り抜ける。
 ぼくは会社の先輩と一緒に信号待ちをしていた。誠心誠意・親切一途で有名な先輩なのに、この路上に落ちているカツラに限っては、見て見ぬふりをしている。
 先輩の口癖は「人間、多少おせっかいなぐらいがちょうどいい」だ。
 親切にしてもらって悪い感情を抱く人間はいない。本音では迷惑だと思っても、親切にしてもらった気持ちそのものは嬉しいものだ。
 親切をどんどん押し売れ。それが、人脈に繋がり、仕事にも跳ね返ってくる。
 お酒を飲むたびにそう力説していたはずなのに、先輩は、声を掛けてくれといわんばかりに落ちているカツラから目を背け続けている。
 なぜ先輩はこのカツラを無視するのだろうか。親切を押し売る絶好のチャンスなのに。
 新社会人であるぼくは、先輩の気持ちを想像した。
 もしかしたら、「このカツラは男性の持ち物ではないかもしれない」と心配しているのかもしれない。もし彼の持ち物ではなかったら、声かけは大変な失礼にあたる。ビジネスマンとして、礼を逸するのは絶対に避けなければならない事態だ。
 ぼくは、目の前に落ちている商品が彼のものかどうか検証を始めた。親切を押し売るにも慎重さが大事。これも先輩の教えだ。
 ぼくは指先で禿げ頭とカツラの比較した。大きさは同じ。しかも男性はいわゆゆU字型のハゲで、側頭部まで後退した生え際とカツラの形状が完全に一致する。
 さらに検証を加える。信号待ちしている男性たちではげ頭は彼しかいない。この状況証拠は決定的だ。
 信号待ちをしている集団からカツラの持ち主を探すと、該当者は彼しかありえない。
 では信号待ちの集団が来る前から落ちていた可能性はないのか。
 それもありえない。カツラは汚れていない。落ちたてピカピカだ。仮に以前から落ちていたとしたら、おりからの強風ですぐに吹き飛んでしまうだろう。
 真実を明かすことが全てに優先するわけではない。ぼくは、先輩が気にしているかもしれないもうひとつの可能性にも思い当たった。
 カツラは黒いダイヤとも、被る宝石とも称されるほど高価な商品だ。しかし、いくら春一番が吹き荒れたからといって、飛ばされるカツラは安物としか思えない。量販店で間に合わせの商品を被っただけかもしれない。
 確かに衆目の前で安物を返されたら恥ずかしい。場合によっては逆恨みされるかもしれない。
 ときに親切は相手を傷つけることがある。それは配慮が足りない場合だ。
 ぼくはすっとハンカチを取り出した。これでカツラを包み込み、周りから見えないようにして返せばだれも傷つかない。
 ここまで気を回せるようになったのも、先輩の教えのおかげだ。ぼくは先輩に対する感謝と敬愛の念をさらに強くした。
 車道の信号が黄色から赤に変わった。もうすぐ禿頭は行ってしまう。時間が無い。
 ぼくは決断すると、すっとしゃがんでハンカチでカツラを丁寧に包み込んだ。思いのほか軽かった。そうして男性の肩を軽くたたき、どこかで見た顔だなと思いながら、そっと差し出した。
 禿頭は激しく動揺したのか、自分の頭を触り、そして何故か怒りを込めた目でぼくを睨みつけ、ぼくの手から奪うようにしてカツラを取った。
 信号が変わり、禿頭はそそくさと歩き出した。ぼくと先輩が歩く方向と同じだった。
「また親切をしました」
 ぼくが誇らしげに先輩に報告すると、先輩はあきれたように口を開いた。
「お前は真面目すぎるのが欠点だな。黙って見逃すことが親切ということもあるのに」
 そして、ぼくは目撃した。
 わずか一〇メートル先で、いままで信号待ちしていたさえない熟年サラリーマンが、男らしくて凛々しいわが社の社長に変身していくのを。 


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