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【掌編】齊藤想『不思議なカメラ』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房(第21回)に応募した作品です。
テーマは「カメラ」でした。

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『不思議なカメラ』 齊藤想

 いきつけのファミレスでぼくが古いカメラのフィルムを巻き上げていると、彼女が興味深そうに眺めてきた。彼女はフィルムカメラを知らない。ぼくも二週間前までは同じだった。たまたま祖父が死亡し、形見分けとして貴重そうなカメラをもらってきたのだ。
「何をしているの?」
「フィルムを巻き上げている。じいちゃんの形見だ」
 カメラの右上にある小さなレバーを押し込むたびに、フィルムを巻き取る歯車の音が聞こえてくる。いかにもアナログといった感じだ。全体的にゴツゴツとしており、まるで大砲のようなレンズが付いている。重量感も抜群で、振り回せば大人を殴り殺せそうだ。
 試し撮り、と言ってぼくがシャッターを切ると、彼女は不思議そうな顔をした。カシャカシャとゴキブリが新聞紙の隙間を走り回るような音がする。しばらくしてシャッターから指を離す。
「撮影した写真はどうやって見るの?」
「現像するんだ」ぼくはフィルムカメラの仕組みを説明する。とにかくお金がかかる。
「ずいぶんと無駄なのね」と彼女は笑った。
 けど、この無駄が大事なのだ。
 このカメラが不思議な力を持っていることを知ったのは、単なる偶然だった。
 ぼくは祖父のカメラを手にすると、そのままアンティークショップに持ち込んだ。ところが、中途半端な古さのため市場価値はなく、おまけに巻き取り機構が壊れていると指摘された。普通は一枚撮影したら一コマ分しか巻き取れないが、祖父のカメラは何枚でも巻き取れる。おまけに撮影するたびに歯車が軋む騒がしい音がする。
「修理しますか? 安くしておきますよ」
 そう言われたが、もちろん断った。
 そのまま捨ててしまうのも祖父に悪い気がしたので、数枚だけ風景を撮影してみた。現像した枚数だけお金がかかると知っていたので、三枚だけ撮影して、まだ辛うじて生き残っている駅前の写真屋に出した。
 そうしたら、不思議なことに、なぜか十二枚も現像されてきた。撮影した記憶のない写真が混じっている。よく見ると、それらは撮影の間を埋めるような写真だった。
 ぼくは気が付いた。
 このカメラには不思議な力がある。まるでカメラだけタイムマシンに乗ったように、写真と写真の間を埋めてくれるのだ。この力を使えば、とんでもない写真が撮れる。
 だから思った。彼女を一枚だけ撮影して、数日後にまた撮る。そうすれば彼女の生活をのぞき見できるかもしれない。上手くいけば、ぼくのまだ知らない彼女の柔肌が写るかもしれない。
「そのカメラ見せてよ」
 断るのも変なので、彼女に渡した。
 彼女はカメラを裏返しにして、スマホをいじり始めた。自分も高校生だが、親からスマホを禁止されている。彼女がうらやましい。
「お金が掛かるから撮影したらダメだよ」
 分かっている、といいながら彼女はスマホで調べながら楽しそうに操作している。その無邪気な様子を見ていると、ぼくは自分の行為が恥ずかしくなってきた。いったい自分は何を考えているのか。
「このカメラだけど、実は壊れている」
 フィルムを巻き取ろうとする彼女を見て、ぼくは口にしていた。彼女の瞳を前にすると良心の呵責に耐えられない。心の堤防が決壊すると、あとは秘密の洪水だった。彼女の私生活をのぞき見しようとしたことを除いて全てを語り終えたとき、彼女はカメラをテーブルに戻した。
「別に不思議でもなんでもないよ」
「え?」
 彼女がシャッターの脇にある小さなボタンを指さす。
「だって、これ連写モードになっているじゃない。大輔は一枚だけ撮影したつもりだったけど、実は何枚も撮影していたのよ。本当は自動巻取りで巻き取れないはずだけど、このカメラは壊れているから一枚撮影したのと同じように巻き取れたというわけね」
 彼女が軽くシャッターに触れると、カメラが騒がしく唸り続ける。
「異音がするから分かりにくいけど、これはカシャカシャ何回もシャッター切っている音なのよ。それはそうと、大輔はこのカメラで何を撮影しようしていたわけ?」
 制服姿の彼女が迫ってくる。ぼくの背中に冷や汗が流れる。
「まあ、そこが大輔のいいところなのよね。隠し事ができないところが」
 祖父はカメラが縁で祖母と結ばれたという。
 今回の件はぼくの勘違いだったかもしれないけど、このカメラに不思議な力があることだけは間違いないようだ。

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