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齊藤想『祖母の神様』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房(第20回)に応募した作品です。
テーマは「神」でした。

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『祖母の神様』 齊藤想

 個人的なことを県立天文台の館長を勤められている貴職に質問するのは失礼もしれませんが、同じ高校でともに白球を追い続けた知己に頼り、また日本における天文観測の歴史を研究されていると知り、ぜひとも意見を聞いてみたくお手紙を差し上げました。
 ご相談を差し上げたいのは、私の先祖が発見したという神様についてです。
 当時、私は高校生三年生でした。
 野球部を引退し、暇になった私が久しぶりに祖母の家に顔を出したところ、祖母が真面目な顔をしてこう切り出しました。
「神様は江戸時代に発見されたんだよ」
 しかも、神様の発見者は私の先祖だと言うのです。タカシは高校で一生懸命勉強しているから、実際に頑張ったのは野球なのですが、きっと先祖の大発見を証明してくれるだろうと期待しているようでした。
 祖母の話によると、祖母の祖父は江戸幕府の天文方で働いていたそうです。
 もちろん身分は低く、歴々の旗本の下働きとして指示されるまま星空を見上げ、記録を取り続ける書記のような存在だったようです。そのうちに星座の動きに興味を持ち、天の川の神秘に思いをはせ、旗本には黙って独自の天球運行表なる書面を作成したようです。
 その後、江戸幕府が崩壊し、先祖は自動的に失職しました。高位の武家はともかく、下々には新政府の恩恵は行き渡りませんでした。
 なにしろ、祖父は天文観測しか知らない人間です。いきなり路頭に放り出されて大変な苦労をしたようです。
 先祖がひとごこち付いたのは、明治も中頃になったころでした。
 すでに隠居して悠々自適の日々を過ごしているうちに、若い頃の情熱が蘇り、天文観測を自費で再開したそうです。
 時間も金も余裕がある中で、幕臣時代に残した記録を読み返し、ついに神様の痕跡を“発見“したそうです。
 先祖は神様の痕跡を証明するのに夢中になりました。莫大な金銭を費やして望遠鏡を自作して観測し、何らかの証明をしたそうです。先祖の息子からすれば、財産を食いつぶす父親の趣味を快く思うわけもなく、先祖が死ぬと、観測器具と記録は疫病神とばかりに土蔵の倉庫に捨てておかれました。
 そして、太平洋戦争の空襲で、全て灰燼に帰しました。
 いま残っているのは、祖母が教えてくれた語り聞きのみです。先祖は、神様の正体について、祖母にこう伝えたそうです。
「見ることも、触ることも、音を聞くこともできないが、確実に存在する。それは、天球運行表を見れば読み解けるのだ。神様は大いなる力で、宇宙を支配している」
 私個人の感想を問われれば、もちろん神様の存在を信じることはできません。その一方で、先祖が何らかの発見をしたことを確認したい気持ちもあります。
 結論を求めるものではありません。館長のご意見をお聞かせ願えれば幸いです。

 お手紙ありがとうございます。興味深く拝見させていただきました。
 高田君のことならよく覚えています。練習試合のときでしたが、ファールフライを追いかけることに夢中になり、相手チームの監督にダイブして一撃でノックアウトしたのは野球部の伝説になったそうですね。
 その高田君がいまでは県幹部職員となり、部署は違えとともに仕事をするのですから人生とは面白いものです。
 さて本題に移りますが、実は先祖が発見したものの正体がおぼろげに見えてきました。
 ご先祖は「暗黒物質」を発見したのではないでしょうか。暗黒物質とは、観測不可能ですが、確かに質量を持ち、その重力でもって宇宙を動かしている存在です。天体観測の結果、存在していると推定されている物質です。
 高田君はフェルマーの最終定理の話をご存じでしょうか。フェルマーは一六四〇年頃に数学上の問題について証明をなしえたが、証明方法を残しませんでした。後世の数学家が一斉に証明に取り組んだが難航し、実際に証明されたのはなんと三六〇年後です。
 暗黒物質についても、江戸、明治の観測技術で発見できるとは思えません。しかし、何らかの証明をしたことを否定することもできません。観測技術は低くとも、江戸幕府には三百年近くの歴史があります。時間が観測精度を補った可能性は十分にあります。
 惜しむらくは、全ての記録が灰になってしまったことです。
 ご先祖の発見については、今後も謎のまま残ることでしょう。私も高田君のご先祖の発見に思いを馳せながら、研究に励みたいと思います。
 またお手紙をいただければと思います。ぜひとも宇宙の話をしましょう。

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コメント 2

雫石鉄也

ようするに江戸時代にダークマターを発見した人物がいたということですね。
このネタ、面白いSFになりそうですね。江戸時代の観測機器、観測技術で、どうしてダークマターを発見したか。それを読者を納得させる疑似科学でもって書くと、なかなか面白いSFになりそうですよ。
次回の創元のコンテストに出してはどうですか。
by 雫石鉄也 (2017-02-02 13:38) 

サイトー

>雫石鉄也さん
コメントありがとうございます。
5枚では疑似科学を書ききれなかったのですが、ボリュームを増やして星新一賞に応募する予定です。
星新一に落ちたら次は創元SFみたいな。
ただ、江戸時代の天文学は資料が少なくて難航中です。
もっとグッとくるような事実を発見できるよう頑張ります!
by サイトー (2017-02-04 06:36) 

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