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齊藤想『猫鍋』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房(第19回)に応募した作品です。
テーマは「鍋」でした。

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『猫鍋』 齊藤想


 卒業を間近に控えた学生たちの楽しい宴は、突然終わりを告げた。鍋をつついていた同級生のひとりが、急に倒れたのだ。
 異変に最初に気がついたのは、この部屋で飼われている三毛猫だった。鍋の暖かさにまどろんでいた猫が急に耳を立てると、まるで毒アリに噛まれたかのように飛び上がった。同級生が倒れたのはその直後だった。
 鍋パーティーに参加していたのは被害者も含めて五人。いずれも経済学部の学生で、ゼミも同じ。気心の知れた仲間同士といえる。ただ、大手企業への就職枠を争ったライバルともいえる。
 倒れたのは、壮絶なるバトルを勝ち抜いた荒井浩二だった。人当たりがよく、不平不満をひとつもいわず、几帳面で丁寧なキャラが面接官の心を掴んだのかもしれない。
 そんな彼が、糸こんにゃくを口にした瞬間に泡を吹いて倒れた。だれかが糸こんにゃくに毒を入れたのだ。
 警察に届けるべきとだれもが思ったが、事件に巻き込まれて貴重な内定がオジャンになるのも困る。お互いの打算が、警察への通報を躊躇わせた。
 これは犯人に自首してもらうに限る。
 残された四人はお互いに顔を見合わせた。もっとも疑われるのが、食材を用意した新垣眞理子だ。
「だって、スーパーで買ってきて、そのままお皿に盛り付けたのよ。これは鍋よ。細工ができるわけがないじゃない。みんなも見ていたでしょ?」
 確かにその通りだ。しかし、一瞬の隙がなかったとも言い切れない。
 若干のモヤモヤ感を残したまま、次に疑惑の眼差しを向けられたのが、会場となった下宿先を提供した五十嵐颯太だった。何しろ、倒れた荒井は最後まで五十嵐宅に行くことを嫌がっていた。
「おれが事前に毒物を用意していたとでもいうのか。そんなことできるわけがないし、する意味もない。それに、荒井がおれの部屋を嫌がった理由だってよく分からないし」
 猫が戻ってきて、五十嵐の膝に乗った。この猫が事件を解決してくれればいいのにと思ったが、某作品に登場する名探偵と似ているのは毛並みだけだった。飼い主が作った胡坐のくぼみに、気持ち良さそうに納まる。
 次に問いただされたのが機材を提供したヤーコフだった。
「ワタクシが持ってきたのは鍋とお玉と卓上コンロだけだヨ。これでどうやって、アライを殺せるのかネ」
 三人の目線は、最後のひとりに向けられた。料理を担当した里見直美だ。よくよく考えると、彼女が一番怪しい。
「ちょと待って。今日の流れを最初から整理しようよ。まずヤーコフが機材を持って五十嵐の部屋にやってきたんだよね」
「そうヨ。それで一式を窓のソバに並べた。そうしたら五十嵐のキャットがきて」
「そういえば、そんなコトもあったよなあ。猫鍋のように鍋のなかにくるまっていたから追い払った。そうしたら、次に新垣がスーパーの袋を抱えてやってきた」
「私は袋から出してザルの上に並べただけだから関係ないわ。五十嵐もヤーコフも見ていたはず」
「おれは猫と遊んでいたからよく分かんない」
「ワタシは少し手伝ったけド、ずっと一緒に居たわけデはないから」
「二人とも酷い! 薄情すぎるわよ!」
「いいから続けるわよ。次に今回の被害者である荒井がやってきて、最後にきたのはこの私。そのまま料理を始めたから、私が犯人ということはありえない。それはみんなも知っているよね」
「そういえば、鍋」
 みんなが腕組みをするなか、五十嵐が何かを思いついたように呟いた。
「荒井がうちに来たがらなかった理由って、もしかしたら猫アレルギーだったんじゃないかな。慎重に行動していたけど、猫の毛かなにかを口にして、アナラキーショックで急死したとか」
 ヤーコフが頷く。
「確かに症状もぴったりダし、重度なら倒れてもおかしくないヨ。彼は優しいから、トモダチが猫好きなのを知って、そのことを言えなかったのダろう」
 いままで疑惑の中心に立たされていた新垣が、里見に迫る。
「その鍋で猫ちゃんが遊んでいたんだよね。それで里見ちゃんに聞くけど、料理する前に鍋洗った? 調理の前に洗うのは常識だよね?」

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コメント 2

リンさん

サイトーさん、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

猫鍋って可愛いタイトルだけど、まさかのミステリーでしたね。
面白かったです。
荒井が実は一時的に意識を失っていただけで、最後に起き上がって
「鍋ちゃんと洗えよ」
とか言ったら面白かったかも。

by リンさん (2017-01-04 00:22) 

サイトー

>リンさん
コメントありがとうございます。
そのオチは秀逸ですね。ぼくのより全然良いです。
すぐにひとを殺してしまう自分の悪い癖が……(汗)
by サイトー (2017-01-04 05:13) 

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